少年たち 備忘録①



ここは、闇を抱えた彼らが集まる場所である。

いつの時代も、争いは絶えない。

彼らもまた、争うことでしか自分の価値を見い出せない、可哀想な奴らである。


ここは、そんな彼らの過ごす、非日常な日常。


───少年たちの日常


「ここが⋯今日から僕の過ごす場所⋯。」

そう、大きな塀を見上げながら、黒髪の純朴そうな少年は呟いた。

「入れ」

「ぁっ、⋯はいっ」

厳つい表情をした看守に促されるまま、その檻へと足を踏み入れる黒髪の少年。

胸に抱えた大きく分厚い本だけが、彼の持ち物である。


「ここでは、どんな日常が待っているんだろう。」

罪を犯した者が来る場所とは思えない程に珍しく、大きな瞳をキラキラとさせたその少年は、ひとつ、大きく呼吸をした。



「やんのかこらぁ!」

「上等じゃねぇか!!」

バキッ、ドンッ!

拳と拳がぶつかる音が聞こえる。

「⋯なに、ここ」

そう、塀の中では、争いが起こっていた。

「どうして⋯?」

ふたつのグループが互いに威嚇しあい、喧嘩をしている。時に巻き込まれそうになりながら、戸惑いの表情をする少年。

殴りあう彼らを止めたのは、ピピー!と響く無機質な音。

少年たちは慌てて互いの肩を抱きあう。

「ははっ、喧嘩がダメってことくらい、このバカでも知ってますよ~」

少し癖毛の少年が言う。

「そうそう!喧嘩がダメってことくらい、このアホでも知ってますよ~」

別の少年が、癖毛の男の言葉を被せて答える。

「あぁ!?」

「ちょっっそんなことより!!こんな地味な服じゃなくって、可愛いメイド服とかにしましょーよー♡」

金髪で背の低い少年が、2人の間を制止するようにその場の空気を和ませる。

仲良しの二人組がその話に乗る。

「黙れ!!ともかく、次に争いを起こしたら全員独房に入れる。」

看守はそう冷たく吐き、去っていった。

「上等じゃねぇか!!」

彼らは看守に、いや、この世の中に怒りをぶつけながら、発散することの出来ない怒りを互いにぶつけ合うことで生きているのであった。




黒髪の少年が、胸に抱えた日記を開く。

「ここでは、どんな日常が待っているのだろうか。」

日記に今日の出来事を書き記している時、ブランコに乗っていた金髪で背の高い少年と目が合った。

「ぁっ⋯」

思わず目を背ける少年。

「⋯swing!!」

「えっ、あっ⋯乗っても⋯いいんですか⋯?」

オフコース!」

どうやら、ブランコに乗りなよ!と言ってくれているようだ。タイヤと縄で作られたブランコを見て、金髪の少年を見ると、彼はほら、とタイヤを叩いて少年が乗るよう促す。少年は、静かに腰を下ろした。

「っわぁ!!?」

背中を押してくれたことに驚いて思わず声が出る少年。

「ぁっ、⋯僕、誰かに押してもらったことなくて⋯。⋯⋯っぁ!!!僕の名前は京本!!京本の京は京橋の⋯⋯⋯⋯わかりますか⋯?」

「ニホンゴ、少しだけ⋯」

黒髪の少年の名は京本と言うらしい。





①終わり。